腰痛あれこれ

「腰痛」とは病名ではなく、体に表れる症状の名前です。また腰そのものに問題がある場合だけでなく、生活習慣や職業やストレスなどの要因が複雑に絡んでいる事もあります。ですから自分の生活を顧みる事が腰痛の原因を知るためのヒントになる事もあるでしょう。「厚生労働省 令和元年(2019年) 国民生活基礎調査の概況」による病気やケガによる自覚症状の調査では男性1位、女性2位が腰痛となっており、誰もが何時でも経験しうる身近な症状であると言えます。

腰痛が起こる原因は様々で、複数の原因が絡んでいる場合もあります。多くは原因不明ですが、15%程度は原因を特定出来る「特異的腰痛」と呼ばれます。原因となる代表的な病気としては椎間板ヘルニア、骨粗しょう症が挙げられます。これらはいずれも背骨の神経(脊髄神経根)が圧迫されて痛みが起こり、圧迫が酷いときには脚の筋力低下やしびれを伴います。

腰痛の約85%は神経症状(痺れや麻痺など)や基礎疾患などが無く、X線やMRIなどの画像検査をしても、どこが痛みの原因なのか特定しきれない「非特異的腰痛」です。一般的な腰痛症とはこれを指します。また妊娠や生理など女性特有の原因で起こる腰痛もあります。更に更年期になると体内のホルモンバランスが変わり、腰痛が起こりやすくなる事もわかっています。

 よく聞く「ぎっくり腰」とは俗称で、正式には「急性腰痛症」と言います。この症状も非特異的腰痛に含まれます。急に無理な動作をした時などに起こる腰の組織のケガで、椎間板、腿、靭帯などの損傷が多いと考えられていますが、厳密にどの部分が傷んでいるのかを断定するのは難しいためです。

 腰に激痛が突然訪れ、うまく歩けない程の痛みが数日間以上続きます。が、病院の検査では異常が見つからず湿布薬や鎮痛剤を処方されて治療をしないことがほとんどです。実際、ぎっくり腰の原因は詳しくわかっていません。ただ骨格の歪みによる姿勢のバランスの乱れが有る人が起こしやすいようです。腰に負担がかかる刺激が長年積み重なる事により筋肉や関節の捻挫・炎症を引き起こし、痛みが表面化するのでしょう。

 その発生には当然個人差があります。年齢によっても違いますし、栄養状態や日頃の鍛え方などによっても違ってくるでしょう。全く「腰痛」と一言で言っていますが、厄介な症状です。

例えば私が重いものを急に持ち上げたら腰に稲妻が走って動けなくなりました。接骨院に担ぎ込まれます。これは急性です。急性と言うのは今まで健康だったのが、何かのきっかけで急に具合悪くなったという事です。こういう患者は比較的わかりやすいですよね。その前は健康だったし、原因もはっきりしています。

ぎっくり腰になったばかりの急性期では安静にして、まずは冷やします。落ち着いてきたら湿布をして必要であれば腰部にコルセットを巻いたりして固定します。その後は慎重に日常動作を行いながら1週間位で治癒できるような形で普段通りの生活に戻る努力をします。

3週間程度の経過観察を経て症状が改善しない場合(痛みや痺れが残る場合)は整形外科を受診した方が良いでしょう。他に内科、消化器内科、もしくは婦人科的な問題があるかもしれません。先生によく相談しましょう。

それに対して原因がはっきりしない場合はどうなるのでしょうか。慢性の場合です。慢性と言うのは徐々に具合が悪くなって一進一退を繰り返し、だんだん悪くなって行く。そして耐えられなくなってどうして良いのかわからず接骨院の門を叩きます。そうなると接骨院の先生も困ります。とりえず問診をして直接徒手整復をし、患者の全体を見ていくという事が治癒への第1歩となります。

ところで慢性の腰痛には接骨院での健康保険は使えません。保険が使えるのは急性のケガに対する施術の場合です。ただこういうケースがありました。60歳を超えた女性が腰痛症で来院しました。この人は背の高いハイヒールを長年履いて外交員をしています。ご本人は自分で若いと思っていらした様ですが、ハイヒールというのは腰に与える影響が非常に大きいです。疲労がどんどん蓄積して行き、疲労性の捻挫が起きてそれで治療を受けました。

ところがこれは保険では支払えないと止められてしまったのです。接骨院の判断は疲労の蓄積による捻挫です。現在は健康保険の対象となるのは「関節が可動域を超える捻れ」となっているために疲労の様な微細な外力の蓄積による痛みは適用出来ないのです。

そういう意識を持った治療が判別の中で必要だろうと思います。骨折の場合は画像診断やその他でわかりやすい。でも捻挫はわかりにくいのです。だから把握しにくい。だからこそ詳しい背景を施術録にきちんと記載して、第三者の判断に耐えられるような説明が出来ていれば、それほど大きな問題にならないのです。

もちろん年齢、性別、栄養状態、個々のケースは多様ですが、その様な事を先生方が総合的に判断できるかという事が問題だと思います。捻挫でないものと捻挫とを識別できるぐらいの記述をきちんと判断の中で表現できるようにしておくことが大事だと思います。あたかもテクニックのような事を言っている様ですけど、そうではなくて常にそういう目で施術をしなければいけない、という事を言っている訳です。

繰り返しになりますが、痛みの発生には当然個人差があります。原因は千差万別ですし、生活環境や日頃の鍛え方などによっても違ってくるでしょう。全く「腰痛」と一言で言っていますが、厄介な症状であります。


著者:ティラーズ運営事務局

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