江戸時代の接骨術
柔道整復術は長い歴史を持ち、接骨師・ほねつぎと呼ばれて現代に受け継がれる、伝統医術の一つです。記録に残る限りでは平安時代中期の書籍「医心方(いしんぼう)」(日本最古の医学書)で接骨の技術が見られますが、同時期の他の古書にも「正骨(整骨)」や「接骨博士」という文字が有り、既に平安時代の初期頃から接骨・正骨(整骨)の手当てが行われていたと考えられます。
その後、鎌倉時代から戦国時代にかけては主に合戦の負傷者が治療の対象でした。それが江戸時代になると大きな戦はほとんど無くなり、日常の外傷が治療の対象になります。そんな流れの中で様々な流派が誕生して行きました。ただそれらの独自の技術は門外不出の秘伝とされ、その多くは限られた者にのみ、その医療技術が伝えられていました。
江戸時代も中期に入ると、八代将軍徳川吉宗によって柔術活法を由来とする接骨術が日本各地に広まって行きました。また、長崎の出島から流入する西洋医学に基づく新たな接骨の技術が研究され、「包帯法」や「解体新書」の翻訳により、江戸時代後期から末期にかけて接骨術は大きな変化を遂げました。この時期、1804年に世界で初めて全身麻酔での手術に成功した外科医・華岡青洲も日本の接骨術の発展を後押していました。
時代劇ドラマに「必殺仕置人(1973)」、「新・必殺仕置人(1977)」があります。「この世の正義もアテにはならぬ。闇に裁いて仕置きする!」という決め台詞が痛快で、大変人気がありました。裏稼業の人たちが法で裁けない悪人たちを暗殺していく、というストーリーです。時代設定は文化文政(1804~1830)年間が中心で、江戸では町人文化が栄えていました。
主人公は藤田まことさんが演じる北町奉行の下級同心、中村主水。奉行所ではうだつの上がらぬ昼行燈で、家では肩身の狭いムコ殿です。そんな彼にはどうしても許せぬ「悪」がありました。法が罰せない悪を「観音(かんのん)長屋」に住む、必殺骨はずしを駆使する骨つぎ師・念仏の鉄、棺桶の錠、かわら版屋の半次、スリの鉄砲玉のおきん、達が段取り・下調べ・情報収集役として主水をサポートして、悪を罰するようになります。
その仕事人の一人に、念仏の鉄がいます。山崎努さんが演じる鉄は、元住職ですが檀家(お寺を経済的支援する家)に不義を働いたことで島流しとなります。その間に接骨術を学び、放免となった後、江戸の貧乏長屋の一角で「骨接ぎ」を営んでいるという役柄です。今で言うと接骨院整骨院の仕事をしている人ですね。鉄は悪徳代官などの骨や関節を素手で一瞬に粉々にしたり折ったり、または関節を外すことができるという凄腕キャラクターです。
暗殺の手法からして鉄は、かなり人体の仕組みを理解していることが伺えます。時代劇では、悪者を成敗するための接骨術として用いられていますが、日常の鉄は接骨医なので江戸の民衆のために地域貢献しています。時代劇のドラマですからもちろん面白おかしく脚色されていますが、人々にとって身近な職業であることがわかります。接骨術は江戸時代に最も発展した、道具を使わず手で治療できる素晴らしい技術なのです。
接骨術は日本において長い歴史を持ちながら、戦後からしばらく経つまで国家資格として認められない不遇の時代がありました。日本の歴史のなかで人々の健康を支えてきた接骨院整骨院は、人体の持つ自然治癒力を引き出す柔道整復術を施す場として、世界的にも研究が進められ発展を続けています。
その施術では手術や注射等の外科的な手段ではなく「徒手整復」という独特な手技によって施術を行います。怪我に対して固定や後療を行い、人間の自然治癒力を引き出す施術を行っています。古くから人々に必要とされてきた伝統医術だからこそ職業としても現代に生き残り、新しい知識を取り入れながら時代のニーズに合った更なる発展を続けています。
「教えて! tillers」は求人マッチングサイト「ティラーズ」がお送りするウェブコラムです。柔道整復師、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師の「はたらく」を考える情報をお届けします。