接骨院の かかり方
女手一つで妻を育て上げた80を超えた義母はおしゃべり好きだ。口から生まれるとはこういう事なのだろうといつも思っている。数年前に亡くなった義父は石のように無口だったので、相手は誰でも何でも良いのだろう。結婚のあいさつに行った時も、よくある気まずい間が埋められて助かったものだ。その時以来、私は義母のシンパである。
中々会いには行けないが、妻が毎日スマホで連絡をとっている。ある日帰宅したら「大変、母がケガしたって」と、駆けてきた。詳しく聞くと、学生が自転車で爆走して来て避けようとしたらポストに腰をぶつけて転倒したらしい。すぐ起き上がって帰宅出来たと言うが、後になって何だか腰が痛くなり接骨院に行ったそうだ。
その後、続報も無く良くなったのだろうと思っていたのだが、聞いてみると1か月以上経っているのに未だ接骨院に通っているらしい。どこか具合でも悪いのかと思い、珍しく電話をしてみたら久々のマシンガントークで返答が帰ってきて、聞くにつれて段々複雑な気持ちになって来た。完全に慰安目的で通っていたのだ。
最初は間違いなくケガとして通っていた。痛いので毎日のように通っていたらどんどん良くなってきたので安心したのだが、そのうち他の箇所が気になってきたらしい。朝目覚めたら寝違えたのか首が痛い。バス停まで走ったら足が重くなった。料理をしていたら肩が凝ってきた…それらってケガじゃありませんよ、お義母さん。
そして領収書を確認して貰って確信した。お義母さん、その接骨院はアウトです。施術をしてもらうのは構いません。でもそれらの為に保険は使えません。自費じゃなきゃダメなのです。後々になって全額を請求されるかも知れませんよ…と言う事をなるべくショックを受けないようにゆっくりと説明したら、何とか納得してくれた…と思っていたら甘かった。接骨院通いを止めなかったのだ。
こうなったらしょうがない。思い切って接骨院に電話をして事情を聴いたら、やはり確信犯だった。その後接骨院が義母に話をしたらしく、やっと通院が止まった。けどなんとなく義母との仲はギクシャクしてしまった。何も言わない方が良かったのだろうか。いや、でも気付いた時に言ってあげて、良かったんじゃないのか。未だに気分はモヤモヤしている。
接骨院に行くのはかまわない。が、保険が使えるのは急性のケガに対する施術の場合だ。慢性の肩こりや疲労回復には保険は使えない。自費で賄わねばならない。病院に行くのとは違うのだ。その事を患者は知っていなきゃいけないし、柔道整復師は最初に患者に知らせなければいけない。今回の件は無知同士が起こした出来事だったのだが、誰かが立ちあがって啓発しなければ、いつまでも同じことが起こり続けてしまうだろう。
著者:ティラーズ運営事務局
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